実質賃金マイナスでは住宅需要動かず

ともに低下する実質賃金と持家着工

参院選を前に、各党の議論が活発化している。石破首相は経済成長と物価高を超える賃上げの実現を第一に掲げた。大企業を中心に賃上げ自体は進んでおり、今年も賃上げ率は5.25%と2年連続で5%超えの高い水準となった。ただ現状は賃金と物価の好循環は思ったように回っていない。トランプ関税の影響もまだこれからで、日本の食料自給率やエネルギー自給率を考えると、為替と輸入物価が国内物価に連動しやすい。あらゆる消費財の値上げが続く中、実質賃金は上がりにくくなっている。7月に発表された厚労省の毎月勤労統計によれば、5月の実質賃金は前年同月比で2.9%減。4月よりも悪化して今のところ上昇の気配はない。
実質賃金及び消費者物価指数と、持家着工戸数の前年同月比増減には、一定の関連性がある。物価を勘案したものが実質賃金であるため、消費者物価指数が上がれば実質賃金はより押し下げられるわけだが、そこに持家着工の動向もある程度連動している。持家着工が34ヶ月連続して前年を割っていた時期は実質賃金もマイナス圏で推移し、今年に入って5ヶ月連続でマイナスとなっている期間は、持家着工も大きく落ち込んでいる。
 
■実質賃金と持家着工には一定の関連性あり
現金給与総額、実質賃金、消費者物価指数、持家着工数年比推移

住宅需要回復への課題

2025年に入ってからの住宅着工は、より影響力の強い法改正によってイレギュラーな推移となっている。5月の持家着工は11,920戸と、今年1月を約1,600戸下回る記録的な数字となった。今のような過渡期は短期の数字でモノを見るのはやめた方が良いが、想定を上回る落ち込みであり、4~5月の住宅着工を年率換算すると60万戸水準となる。6月以降少しずつ正常化していくとしても、4~5月の落ち込みをカバーするところまでは戻らないだろう。着工のズレ込みは解消されず、6月以降前年並みで推移したとすれば、2025年度住宅着工は75万戸内外、持家は20~21万戸程度となる。
 確かに賃上げは必須課題である。住宅会社でも賃上げを進めているところは多く、人件費を上げて優良な人材を確保していくということには、各社本気で取り組んでいるはずである。但し賃上げ継続には人件費増以上に収益が成長していくことが求められる。今年度の着工は全く見通しが立たないが、物価上昇が鈍化し実質賃金上昇の兆しが見えれば、住宅需要を動かすチャンスかもしれない。
 
■2025年度持家着工の予測
2025年度予測
 

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